大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(う)1388号 判決

被告人 若槻実

〔抄 録〕

一、第二点について。

所論は、職業安定法は専ら「産業」に対して適用されるものなるに特殊飲食店は生産を目的とせず従つて右にいう産業ではないから、同店従業員の雇入れ斡旋行為に対しても同法の適用なしとなすのである。

おもうに、職業安定法第一条にいう「産業」とは主として物資の生産的方面を内容とする業務を意味すること所論のとおりである。然し、その具体的内容の種別如何、又特に許可、免許、届出等の手続を経たか否か等の区別を超えて要するに適法なる業務に属することを要するは当然である。之に反し、同法第六三条第二号にいう「業務」とは、第一条にいう産業たると否とを問わず要するに営利を目的として継続的反覆的になされる実際的事業状態を汎称するものと解するを相当とする。同条号所定の「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介」をなすことを処罰取締るのは、之により間接に同法第一条の産業に労働力を集中充足せしめる目的達成に資するためで、両法条は各独立の分野に立ちながら表裏相俟つて結局第一条にいう職業安定および経済興隆の目的実現を図るものであり、その間互いに撞着矛盾する関係はない。従つて、第六三条第二号にいう「業務」に関する行為なりや否やは、第一条にいう「産業」に属する行為なりや否やに拘らず独自に判断するを妨げない。

之を本件に照すに、原判決において被告人につき判示するところは、専ら職業安定法第六三条第二号の公衆衛生上及び公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で婦女に対し職業紹介をしたという点にある。而して料理店の接客婦ではあるが実際上その従業中客に対し職業的に売淫することを内容とする雇い入れ契約の成立を斡旋することは、右条号に該当することは既に論旨第一点に対する判断において述べたとおりである。而して、此の判断は同条号の目的に拠り独自になし得るものなることも前述の如くである。故に、之に対し、料理店営業が産業に属しないということを以て実際上職業的売淫をも内容とする業務に対する就業斡旋を罰することを違法となすは彼此混淆するもので失当である。従つて、原判決には同判示第一の事実に対し右第六三条第二号の規定を適用した点において所論のような法令適用上の誤を来した廉はみられない。論旨は理由がない。

一、第三点について

まず、いわゆる特殊飲食店において抱えの婦女に職業的に売淫させることは所詮公認された業務内容たらざることは論旨第一点につき判示したとおりである。次に、職業安定法第三三条の四と第六三条第二号との関係につき按ずるに、第三四条の四は、料理店、飲食店等特定業者は、その職業柄、若し同人等に対し職業的に職業紹介をなすことを公認するにおいては、人身売買的事態の発生等諸種の社会的一般的弊害あるを虞れ、紹介先の職種を問わず全面的に職業紹介事業の併行そのものを禁止しているのであり、他方第六三条第二号は、偏えに公衆衞生、公衆道徳の見地から、何人と雖も、これに有害な業務に就かせる目的の職業紹介を処罰することに規定しているのである。故に、両規定は各その目的および適用対象を異にする。而して、本件においては、右第六三条第二号違反の事実として起訴せられ且つ原判決がなされ、また、その擬律に誤ないことも前述のとおりである。故に、それと右第三四条の四違反行為とを併せ認めることができるや否やは別として、第三四条の四該当事実のみを認定すべきものとするは、之また失当である。

故に、本件事実につき右第三四条の四を適用せず第六三条第二号を適用した点においても原判決は所論のような法令適用上の誤あるものではない。論旨は孰れの点からみても理由がない。

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